Saturday, August 04, 2007

縦糸横糸

 河合隼雄氏の訃報を受けて、本書と『無意識の構造』(中央公論新社 1977年)を手にした。

Amazon.co.jp: 縦糸横糸 (新潮文庫)

 数ある著書の中で本書を手にした理由は、よく分からない。なんとなく、ふと、手が伸びたのだ。動機は不明であるが、本書を手にしてよかったと思っている。

 本書は毎日新聞での月一コラムのまとめである。なので、必然的に時直の時事問題に対して言及する形となっている。しかし、古びた感はなく、問題の本質をとらえていると考えるのが妥当だと思う。

 養老孟司氏と同様に、明確に、「ああせい、こうせい」というのがないのが特徴である。そして、ある出来事に対して、「こういう見方もありますよ」という具合に、私にとっては新しい視点を作ってくれる。メディアの受け売りでしか知らないようなことは目からウロコ状態になること間違いなしだ。1996年から2003年までのコラムをまとめたものなので、冷静に見ることもできる。違う解釈を得るには時間も必要だ。そういう意味でも丁度よい時間だ。

 本書を読んでいて、ほとんど唯一といっていいが、赤線を引いた箇所がある。

深層心理学は他人のことをとやかく言うためではなく、自分を知るために、時にそれがいかに苦痛であっても、役立ててゆくためにできてきたものである。(pp.184)


 なんとなく、この一言が河合隼雄氏を表した言葉なのでないかと思った。そして、私の心理学に対する偏見や誤解が氷解したような気がした。本書の解説は茂木健一郎氏が「中心を外さないこと」というタイトルで書いている。彼も同じところを引用していた。すーっと染み込む言葉となった。

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