Saturday, April 12, 2008

リチャード P. ファインマン 『ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉〈下〉』

Amazon.co.jp: ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉 (岩波現代文庫): リチャード P. ファインマン,Richard P. Feynman,大貫 昌子: 本Amazon.co.jp: ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉 (岩波現代文庫): リチャード P. ファインマン,Richard P. Feynman,大貫 昌子: 本 タイトルから推測して、「ファインマン、そんなやり方今まで聞いたこともないぞ!冗談だろう?」とか「ファインマン、冗談だろう?そんな無茶はやめてあきらめろよ……」などというやりとりでの「ご冗談でしょう、ファインマンさん」かと思っていた。が、違うらしい。

 私は本を読んで、声を出して笑うことは少ない。もちろん、喜怒哀楽を失ってはいない。しかし、身体反応として出ることが極端に少ない。本書は「ショートショート」と同様の面白みがあると、私は思う。「ショートショート」を読んでいるときは、「うまいなぁ」とか「いいアイディアだ」などと、作者の才能に感心して唸ってしまう。だから、面白さを表現する笑いが身体表現として出ない。時には嫉妬してしまうくらいだ。

 が、本書はファインマンさんが主人公である。実在の人物で、科学者で、ノーベル賞受賞者で、とにかく「アタマのいい偉い人」というラベル付けの人なのだが、やっていることは、かたやドリフのコントのようである。ベッドでゴロゴロしながら読んだのだが、脳から余分な空気がプシューと抜けていくように、私の声帯からも笑い声がもれる。

 読後に残っているのは爽快感。ほとんど、それのみといってもよい。一応、教育に絡めた箇所で付箋をつけている。それは、ブラジルと日本の物理教育、科学教育に対するもの。暗記のみが学問課程で重要視され、実際にそれを使う際に全く役に立たないといった類のもので、現在の教育問題に主流そのものだ。もうひとつ、心理学や精神科を嫌っている。私も似たようなスタンスなので興味をそそられる。

 こんなに豊かな人生をおくっている人間がいる。環境がよかったのか?話しのほとんどは第二次世界大戦中とその後の混沌として時代だ。時代背景などの条件は、当てにならない。ファインマンさんは優等生ではあるが、挫折もしている。受験社会の日本ではよくわかるのではないだろうか?成績十分でも定員の関係で第一志望の大学へは通えず、大学院も希望とは違う。しかし、MIT のことを愛しており、プリンストンのことも愛している。所属していたキャルテクも愛している。私たちの中にも似たような経験をしている人は多いのではないかと思う。

 Going My Way と原文に書いてあるのかどうか、私は知らないが、まさしく、これを貫いている強い人だと分かる。このことはたびたび本書にも出てくるが、『困ります、ファインマンさん』のアーリーンとのはなしが詳しい。

 こんな話を聞いたことがある。困難な環境を変えるにはどうすればよいのか?それにはふたつある。現実を変えるか自分を変えるか。現実を変えるとは困難な環境そのものを変えること。これにはコストがかかる。もしかすると社会制度かもしれない。そんな悠長なことはしていられない。それならば、自分を変えることがコストも安く、手っ取り早い。しかし、ファインマンさんについて考えるとしっくりこない。

 「感化力」ということばがある。

茂木健一郎 プロフェッショナル日記: 感化力

欠点や弱点もまた、同じことではないか。
劣っているところ、欠落していることを自分の
中に抱えて隠してしまうのではなく、
 むしろさらけ出すことで
 そこにある種の磁場が生じて、補助して
あげようという人々が現れる。

 本書から読み取れる、ファインマンさんの言動・しぐさは茂木健一郎氏のいう「感化力」になる。ファインマンさんの言動は、新入生や新入社員に求められる態度なのではないかとも思った。

 古い友達が、ちかく転勤になるようだ。送別会を開くとなると、重い決断のひとつなのかもしれないと考えている。本人に直接聞いたわけでないので憶測だが、新しい生活環境、職場環境のことを考えると、そんなこと大なり小なりなのかもしれない。もし、本書を読んでいなければ選別として贈りたい。

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